研究概要 |
この研究の初期段階(13-14年度)で我々は「遺伝距離準拠型逐次リンクアルゴリズム」を開発し、GenBankから抽出した24個のHIV-1(env遺伝子のV3領域)の連続サンプルに適用した。その成果が2003年国際誌"GENE"に掲載された。15年度から、国立感染研エイズセンターとの共同研究をきっかけに、多剤を用いた抗HIV治療を受けている患者から採集した連続ウイルスサンプルに我々のアルゴリズムを適用することになった。そして、多種類の抗HIV剤の攻撃によってHIVの進化がさらに複雑なものになり、いままでの逐次リンクアルゴリズムを大きく改善することになった。そこで、我々は情報理論に基づいた相互情報量基準(mutual information criterion)をこの研究に適用する試みを始めた。同一患者から得られた189個のHIV-1 pol遺伝子の連続サンプルを解析した結果、各薬剤セットを投与した時期に存在したウイルスのサブ集団を分類することができた。さらに、時間と共にこれらの集団の頻度変化、及び各集団の特徴的な変異を推定することができた。また、各時期のウイルスの同義置換率と非同義置換率を推定することにより、強力なプロテアーゼ阻害剤を投与された時期にウイルスの増殖能力が著しく低下したことが示唆された。このような解析は抗HIV治療の時系列的な評価及び薬剤耐性機構の解明に有用な情報を提供することができると考えられる。 この研究成果はすでに2つの国際学会(SMBE2004,ISMB2004)と4つの国内学会(進化学会、ウイルス学会、エイズ学会及び分子生物学会)で発表しただけでなく、日本エイズ学会においては優秀演題賞を受賞し、高い評価を受けた。学会発表と同時に、多数の症例を解析した上で国際誌に投稿する準備も進んでいる。一方、我々は同義/非同義置換率の推定のために開発されたコドンモデルにおいて、ウイルス進化の研究に取り込むだけではなく、コドンモデルの提案者、ロンドン大学のYang教授との共同研究でこのモデルを分子系統樹の構築にも適用し、その成果は国際誌Systematic Biologyに投稿し、acceptされた。
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