約500万年前にアフリカにおいてヒトとチンパンジーが共通祖先から分かれ、それぞれ独自の進化を遂げてきたと考えられている。しかし、ヒト-チンパンジー間の種分化がどのような過程であったのかはわかっておらず、議論が盛んに行われている。そこで、University of Texas Health Science Center at Houstonの印南秀樹氏との共同研究として、Fujiyama et al. (2002)によって発表されたチンパンジーゲノムの大量断片配列を用いて集団遺伝学的解析を行い、ヒトとチンパンジーの最終共通祖先集団のサイズを推定するとともに、共通祖先集団がヒトとチンパンジーの集団に分離するまでにかかった時間を推定する試みを行った。その結果、最終共通祖先の有効集団サイズは1万程度になり、また分離が始まってから完了するまでにかかった時間は極めて短かかったということが推定された。この結果は、従来から行われていた単純なモデルによる祖先集団サイズの推定方法が有効であることを示している。しかし、本研究によって明らかになった分離が短時間のうちに完了したという推定が正しいとすると、古類人猿からヒトの集団が分かれた原因と過程についてこれまで提唱されてきたいくつかの説を限定することができると考えられる。今のところ、アフリカ東部における地溝帯形成と大規模な気象変化による地理的隔離が原因の有力候補である。今後、より綿密に解析結果とヒトとチンパンジーのゲノム構造を分析し、ヒト-チンパンジー間の種分化の原因と過程を詳細に記述していく。
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