哺乳類において、刷り込み現象の対象となる刷り込み遺伝子の多くはクラスターを形成して存在し、共通の調節分子を利用してドメインレベルで数百kb-数Mbの広範囲にわたる発現制御を受けている。これらの発現制御には、DNAおよびヒストンのメチル化や、アセチル化等、エピジェネティックなクロマチン構造の変化が深く関与している。ゲノムDNAはMAR(Matrix Attachment Region)を介して核マトリックスと結合することでクロマチンループに代表されるようなクロマチン構造を構築している。MARは、転写やドメインの制御、特に刷り込み遺伝子のクラスターのような広範囲にわたる制御に重要な働きをしていることが示唆され、核マトリックスとゲノムDNAの特異的結合機構によるクロマチン構造の変化の解析は、クロマチンドメインレベルの遺伝子発現制御機構の解明につながるものと期待できる。 本研究においては、MARの機能を解析するための基盤作りとして、刷り込み遺伝子(LIT1、IGF2)内に存在するMARのターゲティングコンストラクトを構築し、ヒト11番染色体を保持するDT40細胞内で相同組み換えによりMARを欠失させた。さらに、目的のMARを破壊した改変染色体を、微小核細胞融合法を利用してチャイニーズハムスター(CHO)細胞へ移入した。加えてRNA FISH解析を利用したIGF2およびLIT1の発現動態の解析方法を構築した。LIT1 RNAは、細胞周期を通して安定にLIT1 DNA周辺領域に局在し、刷り込み領域における発現制御機構の中でRNA分子の関与によるクロマチン構造の変化が重要な働きをしている可能性が示唆された。今後は、このようなアプローチよりターゲティングでMARの機能を破壊した遺伝子および周囲の遺伝子発現に与える効果を調べ、クロマチン構造の変化をもたらすMARの遺伝子発現制御への関与を追求する。
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