われわれはゲノム中の多数の一塩基多型(SNP)について日本人集団と西欧人集団におけるアレル頻度解析をおこなうことにより、人類の分岐後に生じた集団間のゲノム多様性のなかから自然選択によるものを検出することを目指している。SNPは多因子疾患の遺伝的要因の解明等に有用なマーカーであり、すでに公共データベースには700万個以上が登録されている。しかし、アレル頻度が算出されているSNPはその7%程度であり、頻度測定の方法もさまざまで検索対象人数・集団数が十分であるとはいえない。われわれは、自動キャピラリー電気泳動装置を用いたSSCP法に基づくSNP頻度定量システムを構築した。この方法により、集団からサンプリングされた多数個人のDNAを等量づつ混合したプールDNAを分離・定量することで集団中のSNPアレル頻度を正確に推定することができる。主に転写開始点近傍のSNPを解析し、約1500個のSNPのアレル頻度を算出した。その結果、過半数のSNPのアレル頻度は日本人と西欧人で有意に異なることが判明した。これらのSNPについてFstを計算したところ、0.2以上の値を示すSNPは全体の約4%であった。また、その中には、アルデヒド脱水素酵素のようにすでに日本人固有の多型が存在していることが知られている遺伝子も含まれていた。したがって、このようにFstが高いSNPのなかに人種により異なった選択圧を受けたものが含まれると予想される。最も頻度の違いが著しかったSNPについて周辺約10kbの範囲で20個のSNPについてアレル頻度を調べた結果、11個が日本人と西欧人で著しく異なるアレル頻度を示した。この領域の近傍には転写因子の遺伝子および機能未知の遺伝子が含まれる。さらに領域を広げハプロタイプ解析を行い、人種により頻度の異なる要因を検討していく予定である。
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