ゲノム中の多数の一塩基多型(SNP)について各人種集団における分布を解析することにより、人類の分岐後に生じた集団間のゲノム多様性のなかから自然選択によるものを検出し、医科生物学に役立てることを目的とした。このために自動キャピラリー電気泳動装置を用いたSSCP法によりプールDNAを分離・定量することで集団中のSNPアレル頻度を正確に推定するSNP頻度定量システムを利用した。約4000個のSNPについて日本人集団と西欧人集団におけるアレル頻度を求め、Weirの方法により遺伝的分化の指標であるF_<ST>を計算した。日本人と西欧人でアレル頻度が極端に異なるもの(F_<ST>>0.5)は全体の約0.5%でゲノム全体に散在していた。このようなSNPに注目し、それらの周辺領域(約40領域)のSNPについて日本人、西欧人、アフリカ系アメリカ人の3団でのアレル頻度の比較を行った。さらに公開データベースにおける頻度も合わせて検討した。その結果、アレル頻度が1集団でのみ異なっているもの、3集団間で異なっているものが領域によって混在していることが判明した。調べたうちで日本人と西欧人との間で最もF_<ST>の高かったのは染色体11番q23のPOU2F3遺伝子の周辺領域のSNPで、ついで染色体15番q15のGATM遺伝子領域のSNPも高いF_<ST>値を示した。これらの領域のSNPのいくつかは西欧人とアフリカ系アメリカ人の間でも高いF_<ST>値を示した。これに対し染色体17番p13のNUP88-C1QBP遺伝子領域では日本人集団で特異的に他の2集団とアレル頻度が異なっていた。今後はHAPMAPプロジェクトなどにより公開された各人種集団でのゲノムワイドのSNP解析の結果を利用し、日本人集団において特定のハプロタイプが自然選択を受けているかどうかについてさらに情報学的解析を続けていく予定である。
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