この研究課題を始める時点において、前職揚でin silicoで同定した約2500のセンスーアンチセンス遺伝子対配列惰報を有していた。これら遺伝子対はcDNA配列から得られたものであり、実際に細胞内で転写されていると考えられたが、直接の発現は確認されていなかった。これらセンス-アンチセンス遺伝子の実際の発現を確認するため、センス鎖とアンチセンス鎖と区別して発現、定量を可能とするオリゴDNA(60mer)によるマイクロアレイを作成し、2500対の遺伝子のうち約2000対(4000個)の遺伝子に関して主要組織(繊維芽細胞、脳、心臓、精巣)における発現解析を行った。その結果、90%以上の遺伝子がそれぞれの組織において発現し、その発現量、そしてセンス鎖とアンチセンス鎖の発現量の比も組織によって変化しているものがあることが判明した。 7対14遺伝子をランダムに選び、遺伝子の発現をノーザン解析してみたところ、遺伝子が蛋白質をコードしているかいないかに関わらず、センス-アンチセンス遺伝子座からはノーザンプロット上ではスメアとして検出される様々なサイズのpolyA無しのRNAが転写されていることが判明した。また、これらは核内に局在する傾向があることもわかった。このような新規のRNAの状態が判明したため、通常の方法でセンス鎖もしくはアンチセンス鎖のみをノックアウト、ノックダウンすることにより遺伝子の機能解析を行うのは難しいということも判明した。 X染色体転座マウスと亜種間の多型情報を用いて、X染色体上のセンス-アンチセンス遺伝子のうち7つに関してX染色体不活化を免れているかを確認したところ、通常の遺伝子と同様に片方の対立遺伝子が不活化していることが確認された。 センス-アンチセンス遺伝子座からは以上のように特徴のある発現が見られるので、遺伝子座ごとに詳細な転写単位を同定し、機能解析を進めていくことが必要であると考えられる。
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