地球環境に配慮した永続的な生産活動が求められ、殺虫剤に依存しない害虫管理法としてフェロモンの利用が注目されている。鱗翅目昆虫ではすでに500種をこえる蛾類昆虫の性フェロモンが同定され、チャハマキやコナガなどでは、合成性フェロモンを圃場に拡散させることによって雌雄間のコミュニケーションを妨害し、交尾を阻害する交信撹乱法が実用化されている。それらフェロモンの殆どは直鎖状不飽和一級アルコールやその誘導体であるが、近年シャクガ類を中心にエポキシアルケン系の化合物も多数同定され、交信撹乱剤としての利用が考えられつつある。ただし、エポキシ化合物は不斉中心を有しており、大量な光学活性体を有機合成的手法で調製することは容易でなく、現在のところ低コストな農業資材とはなり難い。そこで今回、微生物変換を利用して光学活性なエポキシ系性フェロモン、およびそれらの関連化合物を大量に調製する方法の構築を計画した。 リノレン酸などにおけるポリエン構造近傍の酸化あるいは不飽和化反応をも視野に入れ、それらの変換を行なう微生物を、国内外の分譲機関から提供される多数の保存株からスクリーニングし、目的とする化合物を大量合成する技術を確立すべく、現在、薬剤耐性を獲得しエポキシ化酵素の特異的な発現が予想される植物病原菌を中心にスクリーニングを行った。その結果、ポリエン炭化水素に加えてリノレン酸などの不飽和脂肪酸に対して構造変換を行う可能性の菌株を数種特定することができた。また、他の構造変換物に関しては現時点では合成標品が無いため、アセチレンカップリング反応などを利用しいくつかの有効な化合物の合成を行うことができた。今後それらの合成標品を指標にして、培養ろ液のGC/MSおよびLC/MS分析を再検討する予定である。
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