私は、mRNA合成速度をコントロールする分子機構に着目し、その速度を可変するタンパク性因子DSIFおよびNELFの同定にHeLa細胞を用いて成功した。その後の研究から、RNA合成速度調節が多岐にわたり細胞の分化・増殖をコントロールしていることがわかった。そこで本年度は、DSIFのサブユニットの1つであるヒトSpt5の2種類の欠失変異体の発現ベクターを作製し、これをHeLa細胞にトランスフェクションして細胞内で発現させた。その際、ルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポーターアッセイを行い、それぞれの欠失変異体の遺伝子発現に与える影響を検討した。その結果、少なくともN末から313番目から516番目のアミノ酸を含む領域は、レポーター遺伝子の発現を抑制することがわかった。この領域は、これまでの生化学的解析から、ヒトSpt5がRNAポリメラーゼIIと相互作用するドメイン(N末から313番目から420番目)とRNA結合に関与するドメイン(N末から421番目から516番目)が含まれることが分かっている。そこで、それぞれのドメインを発現するベクターを作製し、同様に検討した。その結果、両方ともレポーター遺伝子の発現を同程度に抑制することが分かった。抑制メカニズムを検討するため、それぞれの変異体の組換えタンパク質を現在、作製中である。また、試験管内転写反応を用いたDSIF活性の測定条件を検討しており、この系でそれぞれの欠失変異体の組換えタンパク質を用いて抑制メカニズムの解析を行う予定である。また、既存の酵母Spt5変異体を材料としてSpt5変異にともなう遺伝子発現変化を、アフィメトリックス社のGene Chipを用いて正常株と比較し解析を行った。その結果、正常株と変異株の間で顕著な違いが観察されなかった。現在、種々の条件を検討中である。
|