転写阻害剤DRBによるRNAポリメラーゼIIの転写阻害は、2つの転写因子DSIFとNELFが必要条件であることを見出し、その構造的、および、生化学的解析を行った。その結果、DSIFは2つのサブユニット:DSIFp14(hSpt4)とDSIFp160(hSpt5)、NELFは5つのサブユニットA〜Eから構成され、DSIFとNELFはRNAポリメラーゼIIに特異的に結合してRNA合成速度を低下させることを明らかにした。一方で、DSIFはある条件下ではRNA合成速度を加速することを示した。特に本研究では、DSIFのRNA合成速度を加速する点に着目し、転写活性化因子Gal4VP16とDSIFが転写反応を協調的に活性化することを発見した。更に、RNAポリメラーゼIIのCTDのリン酸化がその協調作用に必須であることを見出した。Gal4VP16は、RNAポリメラーゼIIをプロモーター上に効率的にリクルートすることで転写効率を上昇させる。一方、DSIFはRNA鎖伸長中のRNAポリメラーゼIIに働きかけ転写反応を促進する。よって、この協調作用は、RNA鎖伸長中のRNAポリメラーゼIIの反応速度をDSIFが上昇させ、その結果Gal4VP16により遺伝子上のプロモーター領域に次々にRNAポリメラーゼIIがリクルートされることを示唆した。さらに、生理的条件下で転写反応の活性化とDSIFの関係を解析する目的で、ヒト肝癌由来のHepG2細胞にサイトカインIL-6を添加してJUNB遺伝子の発現誘導を行い、その結果、DSIF-NELFは、発現誘導前は伸長反応を抑制し、誘導後はDSIFがRNAポリメラーゼIIの伸長反応を活性化することを見出した。また、DSIFはmRNA合成と同時に起こるキャッピング反応を活性化することが知られていたが、本研究ではNELFとキャッピング酵素が競合的に働くことを見出した。
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