研究概要 |
本研究課題における本年度の研究として、癌細胞が特異的に有する特殊構造のDNAに着目し、その構造に相互作用することで癌細胞を特異的に細胞死へと導く新物質の開発を行った。染色体末端部に存在するテロメアは細胞分裂の度に短縮し、体細胞ではある長さまで短縮すると、細胞分裂が停止し細胞は死に到る。しかし、多くの癌細胞では、テロメアを伸長するテロメラーゼが高度に発現している為、半永久的に細胞分裂することが可能である。従って、テロメラーゼ阻害剤は、癌治療において有効なターゲットである。本研究では、テロメラーゼによるテロメア伸長反応の過程で見られる、グアニン4分子の水素結合により構成されるDNAのG-カルテット構造に着目した。すなわち、G-カルテット構造に相互作用することが知られている臭化エチジウムに着目し、その相互作用およびテロメラーゼ阻害における臭化エチジウムの構造活性相関を検討した。合成した各化合物のテロメラーゼ阻害活性を、TRAP(Telomeric Repeat Amplification Protocol)法で、また、G-カルテットとの相互作用を、SPR(Surface Plasmon Resonance)法で評価した結果、臭化エチジウムのフェナントリジン環のN-5位の四級化および3,8位のアミノ基の存在がテロメラーゼ阻害活性の発現に必要不可欠であることを明らかにした。また、N-5位はエチル基よりメチル基が、また、カウンターアニオンにはヨウ素塩より臭素塩の場合の方が、より強いテロメラーゼ阻害活性を示すことを見出した。これらのことより、今後の新規テロメラーゼ阻害剤の開発戦略として、臭化エチジウムのフェナントリジン環の四級化と3,8位のアミノ基を保持し、6位のフェニル基部分をさまざまな官能基で置換した誘導体を合成することで、G-カルテット構造への相互作用とテロメラーゼ阻害活性のより強い新たな化合物を探索するという一つの新たな指針を示すことができた。
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