研究概要 |
地衣類は,ある特定の地衣菌と地衣藻が共生した複合生物であるが,地衣菌を単離培養することにより本来の地衣成分とは異なる二次代謝物を生産することがある.従って,地衣菌の単離培養は新たな薬用資源になりうる可能性があると考えられる.そこで,屋久島など各地で採集した地衣類から胞子由来の地衣菌を単離培養し,その成分検索を行うことにより,多様な代謝物を単離した.そのうち構造未知の新規化合物の構造決定を現在行っている. これまで単離地衣菌から得られた代謝物は,共生状態の地衣類の地衣成分とは骨格が異なる化合物が多い.これは「地衣菌は単離培養条件下では共生を脱したことにより,地衣菌が本来持っていた二次代謝関連遺伝子が発現するが,自然界においては地衣藻によって代謝物の生合成が制御されている」ためと考えられる.そこで,地衣藻の共存が代謝物の生産に与える影響を検討するために,まず単離地衣菌Graphis prunicolaとPyrenula japonicaと地衣藻Trebouxia ericiとの共存培養の条件検討を行った.その結果,寒天培地上では再結合は認められなかったが,BBM5液体培地中では,天然における地衣藻と地衣菌の組み合わせでなくても,再結合が可能であることを明らかにした,この液内培養条件における再結合の実験法は従来にはない新規なものであり,今後共生の機構を調べる上で有力な手段になり得ると思われる.また,地衣藻との再結合が二次代謝へ与える影響について検討することにより,有用な新規物質生産の可能性が期待される.
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