研究概要 |
長野県を中心とする中部山岳域に生息する希少昆虫種の保護とその生息環境の保全を目的として,チョウ類群集を中心に昆虫生態系の調査,定量的モニタリング手法の開発,昆虫群集の構造をもとにした中部山岳域の環境評価手法の開発の各項目について調査を行った.具体的には今年度は,チョウ類群集を中心とした希少種昆虫相の定量調査とトランセクト調査,GISを用いた生息環境評価手法の検討,中部山岳域において長野県版レッドリスト種に挙げられた希少チョウ類の定量的モニタリング手法の開発および高山チョウ個体群のDNA解析による遺伝的多様性の調査を実施した. 希少チョウ類種の定量調査は,ミヤマシジミとヒメシジミについては中央アルプスの3カ所の中山間地域(森林地域,里地里山地域,河川地域)で2004年の1年間で計76回の定量的な定点調査を行いミヤマシジミは年3回発生で延べ678個体,ヒメシジミは年1回発生で159個体を確認し,その季節変動と食草分布との関連を明らかにした.この3調査地でのトランセクト調査では,それぞれ約25回の調査で里地・里山的環境で8科62種4799個体,森林環境で8科59種4224個体,河川環境で6科28種4249個体で典型的な長野県の中山間地域のチョウ類相であった.安曇野で行った絶滅危惧種のオオルリシジミの予備調査を元に,自然個体群が発生地で維持できるような保全管理手法と幼虫・蛹のモニタリング手法の策定を行った.今年度新規に行った遺伝的多様性の研究については,希少種の個体群レベルでの遺伝的多様性を解明することは,保全のためのモニタリングを効率よく的確におこなう上で重要であるため,希少種である高山チョウについてミトコンドリアおよび核ゲノム遺伝子の特定領域の塩基配列を比較した.ベニヒカゲなど遺伝的多様性が高い種とミヤマシロチョウなど多様性が低い種があることなどが示唆されつつある. これらの調査と2003年の高山域での調査をあわせて,希少チョウ類に関してはトランセクト調査と定点調査を併用し,さらに食草マップを加えたモニタリング方法の有効性について検討した.
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