研究概要 |
本研究の目的は,長野県の中部山岳域に生息する希少昆虫種の保護とその生息環境を保全するため,県内のアルプス山岳域において昆虫生態系の調査を行い,長期的視野に立った統計的解析が可能な定量的モニタリング手法を開発すること,および生物多様性の保全と登山・観光などの山岳資源の持続的利用のために,山岳域や中山間地域の里山での昆虫群集構造をもとにした環境評価の手法を開発することにある. このような目的をふまえ,平成15〜16年度にわたって南アルプスの高山・亜高山帯および伊那谷の中山間地域において,鱗翅目のチョウ類を対象に,ルートセンサス,定点調査などの手法を用い定量調査を行った.また源流域での水生昆虫のなかから長野県の絶滅危惧種に指定されたオオナガレトビケラを取りあげ重点的に調査を行った.仙丈ケ岳の亜高山帯で6科16種203個体(13.72),高山帯で3科11種246個体(9.18),三峰川の林道で合計8科36種570個体(1kmあたり26.03個体),源流部で7科29種336個体(8.24)などのチョウ類を確認し,標高と上位優占種の割合やチョウ類群集の多様性との相関関係が把握できた.また高山植物の開花指数とチョウ類の確認個体数/kmや確認種数との間に有意な正の相関が認められた.これらのデータをもとに希少種に対するモニタリング手法としてルートセンサスや定点観測の有効性を検討した. 調査手法の検討では,これら定量的調査から得られたデータをもとに長期的な昆虫生態系モニタリングのための調査ポイントおよび調査手法の検討を行い山岳域での希少種を定量的にモニタリングする手法を提言した.さらにGISを用いたモニタリング手法の可能性を検討した.さらに平成16年度には希少種の個体群レベルでの遺伝的多様性を解明することは,保全のためのモニタリングを効率よく的確におこなう上で重要であるため高山チョウ個体群の遺伝的多様性の調査を試みた.
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