日本国内の干潟に生息する巻貝類のセルカリア感染状況を引き続き調査し、国外では韓国のセマングム干潟4地点、タイの南部12地点で調査を行った。 和歌山市和歌川河口での感染率はヘナタリ4%、ウミニナ11%、ホソウミニナ3%であり、6種類のセルカリアが見られ、浜名湖のホソウミニナは山崎で80%の感染率で4種類のセルカリアが検出されたが、瀬戸では感染は見られなかった。香川県鴨部川ではホソウミニナの感染率は31%で、4種類のセルカリアが確認されたが、これは1980年代後半とほぼ同じ感染レベルであり河口環境は良好に保たれていると思われた。財田川ではホソウミニナが50%、ウミニナが21%の感染率でそれぞれ3種類、2種類のセルカリァが寄生していた。宇部市の浜田川河口のホソウミニナでは感染率5%で2種類のセルカリアが見られたが、丸尾では0%であった。 一方韓国のセマングム干潟では、月浦里のホソウミニナは73%が6種類のセルカリアに感染しており、直沼川、船島里のホソウミニナはそれぞれ2.5%、25%の感染率で1種類、3種類のセルカリアが検出された。また深浦里で固有種のチョウセンキサゴを調べると、1個体(3.3%)に1種類のセルカリアが感染していた。今後のセマングム干潟の堤防締切りにより、巻貝と寄生吸虫類の感染率に大きな影響が出ると患われる。タイのセルカリアも日本、韓国と共通種が多いが、特異な種も見られた。津波の貝-セルカリア群集に対する影響、その後の経過を辿る事は有意義であるが、幾つかの地点では復興事業による環境の改変が非常に大きい事もあり、困難である事が分かった。 貝類の固有種、絶滅危惧種、希少種が分布する地点は生物群集の多様性を保全する上で非常に重要である。これまでの調査結果から、ヘナタリは寄生虫の好適宿主であるにもかかわらず分布地が非常に限定されて来ているので、その生息地は特別な保全策を考慮する必要がある。また、干潟の貝類のセルカリア感染率は地点によって大きく異なっている事から、条件の良い一部の干潟が、吸虫類の生活環の保持に大きく貢献していると思われるので、これらの地点の保全も非常に重要だと考えられる。
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