研究概要 |
(1)両生類のポテンシャルハビタットモデルの開発 生物多様性の効率的な保全のためには,予防的・戦略的な考え方の導入が必要である.これには広域的スケールで多種についてスクリーニングを行い,その中で脆弱な種や地域を同定し,重点的に予防や治療を行う段階とに分けることができる。本研究では,広域スケールで両生類の生息地を推定するモデルを開発した。予測モデルに用いた地理情報は,環境省自然環境GIS第2版の植生図,国土地理院発行1/25000地図画像,国土地理院発行数値データ50mメッシュ標高である。カスミサンショウウオ,アベサンショウウオ,モリアオガエル,ニホンアマガエル,シュレーゲルアオガエル,カジカガエル,ヌマガエル,ウシガエル,タゴガエル,トノサマガエルについてモデルを作成した。 (2)カスミサンショウウオのミトコンドリアD-loop領域の多型による集団間の遺伝的距離の解析 近似種の塩基配列情報を参考にして,カスミサンショウウオmtDNAの調節領域(D-loop)を増幅するプライマーを設計し,滋賀県から山口県までの14集団由来の個体から抽出したDNA標本を用いてこの領域の塩基配列を決定しハプロタイプ間の近隣結合樹状図を作成した。全標本中に現れたハプロタイプは21であり、近隣結合樹状図によって大きく以下の4つのグループが識別された。(1)岡山県、香川県、徳島県、兵庫県の集団、(2)和歌山県の集団、(3)滋賀県と大阪府の集団、(4)島根県と山口県の集団。 (3)カスミサンショウウオの幼生期間への水位低下および捕食者の影響 カスミサンショウウオの幼生は水位の低下によって幼生期間が短縮し,小型なサイズで早く変態するという適応反応が見られた。これは,池の乾燥による死亡のリスクを回避する適応と考えられた。しかし,同様なリスクと考えられる捕食者の存在によっては,幼生期間は短縮しなかった。
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