昨年夏のチェコとスロヴァキアにおける現地調査で収集した資料・情報から、チェコのロマ文化博物館、スロヴァキアの民族博物館付属ロマ文化資料センターにおいて、両国のロマに関する資料収集・研究が進められていることがわかった。 特に民間の手により作られたチェコのロマ文化博物館(現在はブルノのロマが多く居住している地区にある)においては、学芸員、研究員、司書、事務員など、ロマのスタッフが活用されていた。ロマ文化博物館自体が、ロマの雇用を生み出していること、ロマ自身とチェコ人スタッフの協力により、ロマ文化の保存活動が進められていることがわかる。これは、今後のロマ文化の維持及びロマとチェコ人社会の共生にとって、大いに意味のあることであろう。しかし、財政難から、博物館の活動は、収集・研究活動が中心となり、ロマ文化やその歴史と現状をロマ自身やチェコ人に知らせるような展示活動が思うようにできていないのは残念なことである。地方行政、企業、人権団体などからの援助には限りがあるようだが、チェコのEU加盟後、博物館の資金状況が好転するめか悪化するのか、注目しておくべきであろう。 スロヴァキアのロマ文化資料センターは活動を開始したばかりで、まだ実態がはっきりしないが、現状では、スロヴァキア人のスタッフが、情報も含めロマに特化した収集活動を始めたところのようである。ロマ文化資料センターはロマ文化博物館と違って国立博物館付属の施設であり、設置形態の違いが、今度二つの組織の特色に影響を及ぼすと考えられる。 チェコにおいては、ロマに関する研究・出版活動も盛んで、ロマとチエコ人の共生をめざす団体により、頻繁にロマとチェコ社会の関係に関するシンポジウムが開かれ、報告集が出版されている。このような地道な活動が、共生の実現に役立つと思われるが、現状では、必ずしもその成果が現れているとはいえない。
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