今年度は(1)フランコフォニー国際組織(OIF)の近年の活動傾向を追うことと、(2)文化的多様性を掲げるフランコフォニーとその中心国たるフランスとの矛盾点を明らかにすることに焦点をあてた。 (1)については、日本はもとよりフランスでさえ関連書籍および資料はほとんどなく、当該組織のホームページに公開されている資料および国連大学寄託図書館(東京)におけるごくわずかの文書以外は、直接パリのAIF(フランコフォニー政府間機構)に赴き、関係者からの聞き取りによる成果であった。調査は平成16年9月と17年3月の2回で、当該組織の計画策定部長ジャック・バトー氏の協力を得て行われた。聞き取り以外にバトー氏から幾つか内部資料をいただいた。現在はこれの精読と聞き取り内容の分析中であり、来年度にはこれらについて明らかにしてゆくつもりである。 (2)については、1)従来からの研究フィールドであるコルシカ島、と2)2年前よりフランスでは大論議となっている公立学校でのイスラム系女子学生のスカーフ着用をめぐる動き、を取り上げ、1)はフランコフォニーの掲げる理念である文化的多様性に則りながらも、2)はかたくなに旧来の基本理念である共和主義を堅持した結果となった、という矛盾点、対立点を明らかにした。1)については主として、i)地域語であるコルシカ語の現状と地域議会がどのように推進計画・事業を行っているのか、ii)フランス本土との国営フェリーにおける「コルシカ人雇用枠」の要求実現の動き(16年9月)とこれに対するフランス知識人の「共同体主義」批判論、を事例に調査した。i)は具体的に17年2月下旬から3月常人にかけコルシカ議会を訪問し、文化担当議員のフランソワーズ・グラツィアニ氏に必要資料ほか重要な協力をいただいた。現在その分析にあたっている。ii)については、学会誌『日仏社会学会年報』において、フランスにおける他の共同体主義論争と比較しながら分析を加える論文を掲載している。 (3)(1)(2)以外についてはカナダ東部のフランス系少数民族、アカディア人のフランス語学校開設の要求と州政府の拒絶をめぐる法廷闘争を事例に、ケベック州以外のフランス語の状況とカナダ連邦政府の対応についての論文を三元社刊行の多言語社会研究第2号に掲載した。
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