研究2年度(最終年度)となった平成16年度は概ね計画どおり実施でき、ブラジル、パラグアイ、チリ、アルゼンチンでの現地調査に加え英国、ベルギーにてEUにおけるインフラ統合に関する関連資料の収集、ヒアリング等を行った。 1.南米南部共同市場(メルコスル)の中核国であるアルゼンチンの通貨・金融危機によって破綻の危機が叫ばれていたメルコスルだが、現地調査によって相互依存関係はさらに進展していることが確認できた。この点は単に通商面だけでなく、道路・鉄道・海運・空路などのロジスチック、天然ガス・石油・電力などのエネルギーといったインフラ面での整備、さらには国家レベルだけでなく加盟各国間の地方レベルでの相互交流といった面でもはっきり確認できた。 2.以上の動向分析の結果、地域統合は多くの場合、市場統合などの経済的側面において注目されがちだが、南米南部の場合は加盟各国間での「信頼醸成」→「市場統合」→「インフラ統合」→「地方経済の結合」という段階を経て進展し、しかもこれらの要素が(十分には実証されてはいないが)相互に絡み合って地域統合を推進する要因になっているとみることができる。 3.こうした結果、公共財(public goods)への対応が国家レベルを超えて地域レベルで検討する段階にラテンアメリカ諸国、とりわけ南米南部地域は到達しているように思われ、そこに地域公共財(regional public goods)といった観点が登場する素地が出てきいる。この面でEUの経験は途上国地域の統合推進を考える上でも重要な参照事例になりえる。一方、南米南部のインフラ統合の事例はわが国と関係の深いインドシナ・メコン川流域(Greater Mekong Subregion)地域のインフラ統合を考える上でも有益な示唆を提示している。 4.こうした観点を提示する上で学界での見解表明とは別に日本メルコスル・フォーラム(平成16年10月18日)などの場を通じてビジネス社会一般にも知見を公表した。
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