研究課題
基盤研究(C)
新経済政策導入後のインドは、好調な経済成長を続ける一方で、企業の再編を促進している。その結果、大規模な合理化が進展し、フォーマル・セクターの労働者の雇用不安が増大している。安定的な雇用を失った労働者の多くは、階層の下降移動をしている。こうした状況の中で本研究では、(i)経済政策の転換により新たに誕生した「都市失業層」の新生活への適応策、(ii)「都市失業層」が、次世代を視野に入れた長期的な生活設計を構築する際に重要になる視点、(iii)それらをサポートする政策、以上の3点について考察することを目的としている。これを受けて、インド最大の都市ムンバイーの工場労働者に対するフィールド調査を実施した。そこから得られた知見は以下の通りである。(1)失業過程(早期退職、合法閉鎖、非合法的閉鎖などの失業要因)に着目した分析を行った結果、その相違は、失業後の経済状況だけではなく、失業意識の有無、求職意欲の強弱、就労意欲の有無とも強く関係している。失業過程の相違によって失業者の直面している問題が異なるため、将来設計の立て方にも異なったアプローチが必要である。(2)フォーマル・セクターでの就業経験を持たない「都市貧困層」と、近年フォーマル・セクターの職を喪失した新しい「都市失業層」とでは、インフォーマル・セクターで就労することに対する意識が大きく異なる。この差異が求職活動や就労意欲と強く関連するため、「貧困層」内の差異に着目した分析をする必要がある。(3)公的セーフティーネットが不十分なインドでは、企業や労組が社会的責任を果たさなければならない。(1)(2)の状況を認識した上で、労働者の失業意識、求職意欲、就業意欲を高めるための社会サービスの提供が求められている。
すべて 2003
すべて 雑誌論文 (2件)
九州国際大学国際商学論集 15巻1号
ページ: 121-144
Kokusai Shogaku Bulletin Vol.15,No.1