研究概要 |
イランのイスラーム統治体制の下で、イラン国民が広く共有するイスラーム的価値観を概括的に押さえるべく、その基本文献として現在のイランの高校生用宗教学の教科書Binesh-e・Eslami(イスラームの見方)を選び、全冊5巻の読み込み作業を完遂した。併せて、ホメイニー師が樹立したイスラーム統治体制を民主主義の視点から批判するイスラーム法学者M.Kadivarの諸論考、また、このkadivar師に対抗して、イスラーム統治体制の擁護を主張し、欧米が説く民主主義に抵抗する守旧派(Mesbah・Yzdi師門下生)が説く、イスラーム政治論(Nezame shiashi-ye Eslam)の読み込み作業を行った。 これらの作業の結果として得た知見は、次のようなことである。 1,シーア派の基本的信仰箇条の一つに、「イマーム」がある。これは、神が人問を創造したその目的、すなわち精神的に完成された人間となって神に近づくという目的ためには、神が任命した指導者(イマーム)が人間に必要であるとする考えであるが、このシーア派の基本的信仰箇条は、原則的に民主主義と相容れない。 2,にもかかわらず、守旧派の政治思想においては、理想と現実の差を認めて、理想は現実において、その実現が可能なところから、段階を追って具現化を図るとする考え方が示されており、この点において守旧派にも弾力性が見られ、欧米起源の政治制度と妥協しうる側面を持つ。 3,公と私の観点からすれば、シーア派教義において私的領域の保障はないが、ホメイニー師は8項目指示により、私的領域の保護を命じ、また、三権分立という、欧米起源の政治制度をその統治体制において容認したのは、こうした理想と現実の差の認識に基づくと見られる。
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