研究概要 |
標題の研究作業にあたり、試掘のための鍵概念として民主制と正義の概念を取り上げることでこれを試みたが、まず、ホメイニーの指導の下で樹立された現イラン宗教的統治体制におけるイスラームの公式教科書を、イランにおけるイスラームの価値観の公式的見解と位置づけてその全5巻にあたったあと、その部分訳を報告書に納めた.民主制に関しては、リベラル‥デモクラシーとイスラームの対立点を、民主制ではなく、リベラリズムとイスラームの対立にあると説くイラン・シーア派ウラマーのAhmad Vaezi師の論考の部分訳を、また、正義に関しては、ホメイニーの正義観が、アリストテレスのそれの系譜を引くとするDr.M.H.Jamshidi著Nazarie-ye Adalat, Az diidegaha-ye Farabi, Emam Khomeini, Shahid Sadr(正義観-ファーラービ、ホメイニー、サドルの視点から)の抄訳を報告書に、納めた。 これらを総ずれば、ホメイニーを中心とするイラン・イスラーム共和国の価値観とリベラリズムは、アリストテレス的な目的論的世界観と、これを退けた近代西欧の価値観の対立がその基本的特徴の一つであり、このために、昨今の共同体論者の一人で「美徳なき時代」でリベラリズムを批判するA.マッキンタイアの主張とイラン(ホメイニー)の主張には、興味深い共通点が見られることが指摘されよう.同時にこれは、ジル・ケペルが「宗教の復讐」にて指摘するように、20世紀最終・四半世紀以降の世界的な広がりを持つ現象の一つとして位置づけ得るとともに、また、それらは(アメリカや昨今の日本にも該当するが)しばしば当社会固有の伝統的諸価値再評価を求める動きが伴いがちであることも指摘され得る。
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