研究課題
昨年度にひきつづいて、《親密圏/公共圏》の考察を、おもに両者のインターフェイスに発生する「暴力」に焦点をあて、理論と表象研究の両面から取り組んだ。具体的には、以下の9点である。(1)フロイト・ラカンへと続く精神分析の枠組が、一種のバックラッシュとして、近代的な個人主体構築において発生する暴力を隠蔽していると論じ、さらにラカン後期に提示される「ボロメオの結び目」の公式が、神秘主義的な暴力回避の危険性をもつことを指摘した(『ラカンとポストフェミニズム』に収録)。(2)レオ・ベルサーニによるフロイト再読で展開されているマゾヒスティックな自己破砕が、自他の関係の新しい解読になる可能性を、現代の映像表象を絡めて考察した(立命館大学でのシンポジウムで発表)。(3)これと関連して、現代アメリカ文学にあらわれるテロリズムの表象の系譜を検証し、デリダの「歓待」の理論と結びつけて、テロリズムに回収されない対抗表象の可能性を探った(『アメリカ研究』に発表)。(4)翻って日本における改憲論争と三島由紀夫の受容の連動性、および「純愛」という親密圏の出来事が、戦争という公共圏のメンタリティと相同性をもつ危険を考察(COEの全体集会で発表、その後、論文にした)。(5)これまでトランスジェンダー(TG)については論考を進めてこなかったが、私的領域と公的領域の接点である医療の現場で立ち上がってくるTGの問題系を考察した(『セックス・チェインジズ』に収録)。(6)また同様に女性のメンタルヘルスの現場に展開するカウンセリングの権力構造を考察し、大学と社会の協働の可能性を探った(お茶の水女子大学ジェンダー研究センターとの共同研究に反映)。(7)その他ギリシア悲劇、女性大衆作家、映像表象についてgender/sexualityの面から執筆や学会発表(日本アメリカ文学会)をおこない、また海外での国際会議WW05(ソウル)にコメンテーターとして呼ばれた。(8)大部の書物『世界女性人名辞典』と理論書『ジュディス・バトラー』の監訳を完成し、解説を付記した。(9)本研究の蓄積を、勤務校のCOE事業に反映させ、ジュディス・バトラーの初来日講演を成功させた。
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F-GENS Journal, Ochanomizu University No.5(3月発行予定)
アメリカ研究(日本アメリカ学会) No.40(3月発行予定)
言語文化(明治学院大学 言語文化研究所) 23号
ページ: 298-302
Newsletter, Nathaniel Hawthorne Society of Japan No.24
ページ: 8-10
英語青年(研究社出版) 151巻8号
ページ: 454-562
劇場文化:特集<ギリシア悲劇>と<犯罪> 8号
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