本研究では子育て中のフルタイム共働き夫婦30組へ聞き取り調査を行った。その結果、妻の就業によって夫が働き方や就業の選択に何らかの影響を受けていることが少なくないことがわかった。まず、妻が働き続けられるように夫が育児休業を取得したり育児短時間勤務制度を利用したりするなどによって労働時間の調整を行っているケースがあった。家庭生活時間確保のために多忙な部署からの異動を願い出た男性、妻の勤務地へ転勤を申請した男性、別居を解消するために転職をした男性もいた。これらのケースでは、家庭の事情が背景にあることが必ずしも職場に明らかにされないこともある一方で、減給や降格や昇格の見送りなどを覚悟の上であることもあった。 妻の就業は夫の仕事にネガティブな影響を与えているばかりではない。妻が働いているためにリスクを伴う転職や独立に踏み切れたと言う夫が少なからずいた。大学に戻り学位取得を目指すことができた男性や、不幸にして失業してしまったが焦らず再就職先を捜すことができた男性もいた。また仕事上のミスやリストラなどによって退職に追い込まれたとしてもすぐに生活に困窮するわけではないことや、厳しい企業社会に疲れたら仕事を一時的に辞めて休息を取ることも考えうるなど精神面でのポジティブな影響を指摘した男性も多かった。さらに余裕資金で趣味の世界を広げることができることや子育ての時間を楽しむゆとりを持てるなど、仕事以外の自己実現が可能になっていることを歓迎する男性もいた。このように妻の就業が夫の自由度の拡大に寄与している面もあるようだ。 妻の就業が夫の就業選択に直接的な影響を与えていることから、労働を夫婦単位で分析し、夫婦の就業の相互影響について分析する必要性が認識される。
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