本年度は、女子プロレスファン15人(男性8人、女性7人)と引退したレスラー1人のインタビューを行うことができた。このうち、女性のプロレスファン6人のインタビュー結果から明らかになった内容を報告する。彼女たちは、XZ団体(匿名)に所属している選手を応援している。尚、今後もインタビューを続けてゆくため、この内容はあくまでも現時点での結果の概要である。以下に出てくるF***は、インタビュー協力者のIDである。 (1)女子プロレスを見ることによってどんな影響を受けているか プロレス観戦を熱心にやっていると、観戦中心の生活になってしまい、観戦をしない友達とは疎遠になる傾向にある(F007)。一方で、プロレス観戦を通じて、他のファンと知り合いになり、「いい友達に出会うこと」(F012)ができ、その友達と「遊ぶのが楽しい」(F007)。格闘技を始めるきっかけや、それを再開する刺激になっている(F011)人もいる。また、30代の女性は、自分と同じ年代のレスラーたちが現役で活躍しているのを見て元気になった(F008)と語る。 (2)女子プロレスはファンのジェンダー・アイデンティティに影響を与えているか 上述した様々な影響を受けているが、女子プロレスが直接ファンのジェンダー・アイデンティティに影響を与えていると判断できるものは認められなかった。むしろ、女子レスラーは「自分にできないことをしている人たち」であり、「素晴らしい」と思いつつも、自分もそうなりたいとは思わないファンが多かった(F012)。 (3)女子レスラーの身体をどのように捉えているか 自分でも格闘技をしているファンは、レスラーの身体を細かく観察していることが認められた。F011は、好きなS選手の好きな点として、「あの鍛えあげられた体」を上げ、太い足、腕、胸の筋肉が発達していることを指摘した。そして無理だと思うが、S選手の身体のようになりたくてトレーニングをしていると言う。しかし、自分の応援している選手の身体と同じ身体になりたいと思うファンは少なかった。Y選手の身体は「きれいな体型」だが、「あんなでかくはなりたくない」(F009)。Y選手の身体は「かっこいい」と思うし、「そこまで作り上げていてすごいと思」うが、自分はどちらかというとK選手のように、しまったきれいな身体になりたい(F007)。 (4)女子レスラーのジェンダーをどのように捉えているか 闘っているレスラーを「女性」と見る視点はなかった。中性的な存在として捉えたり(F008)、「男」や「女」というカテゴリーではなく、選手「個人」として捉える視点(F007)があった。試合以外では、特にY選手に関しては、「女らしい」というより「女の子らしい」という表現が使われていた(F008、F009)。
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