本研究の研究期間の初年度にあたる今年度は、研究基盤を確立するために、近代イギリスにおける古代ギリシャの詩人サッポーの受容関係や、女性同性愛関係、セクシュアリティ関係、ジェンダー関係などの基本的資料・文献・刊行物、絵画的表象などを国内とイギリスで精力的に収集した。次年度はこれらの資料の総括的で詳細な分析に取り組む予定であるが、今年度中に行った研究によって得られた新たな知見などの成果としては大きく分けて三つある。第一に、イギリス18世紀末の反奴隷制運動と当時の女性詩人たちのジェンダー意識の関わり、白人女性の性的虐待と黒人奴隷の虐待の問題に通底するジェンダー・性・人種の抑圧関係について論じた論文を、「ロマン主義時代の女性詩人と反奴隷制運動」のタイトルで紀要『人文科学論集』第72号に公表した。第二に、1980年代の研究者によって提唱された20世紀以前には現代的なレズビアンはいなかったという説を覆すひとつの例として、18世紀末の女性詩人で「サッポー」と呼ばれたアンナ・シーワードを取り上げ、古代ギリシャのサッポーの同性愛詩の伝統の継承者として論じた英文の論文を、"Anna Seward and the Sapphic Tradition"のタイトルで、来年度12月に発行予定の『イギリス・ロマン派学会創立30周年記念論文集』に投稿した。第三に、現代の批評家たちによって異性愛の辞とされているアンナ・シーワードの『ルイーザ』における女性間の愛(当時は「ロマンティックな友愛」と呼ばれた)について考察した研究「『ルイーザ』におけるロマンティックな友愛」を、来年度5月に行われる日本英文学会第76回全国大会にて口頭発表することになっている。
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