3年計画の1年目に当たり、キェルケゴール、ボンヘッファー、エディット・シュタインらのそれぞれの現地調査を行い、文献を調査し、現地研究者との交流を行い、その成果に基づき、本年度は、学術論文「キェルケゴールの女性論」(大阪キリスト教短期大学紀要に掲載)、口頭発表「キェルケゴールとレギーネーその関係の再考祭」(キェルケゴール協会)、学術論文「エディット・シュタインの女性論」(大阪キリスト教短期大学発行「希望への女性学」所収)を発表した。 キェルケゴールに関しては、彼の女性観研究に欠かせない、彼の初期作品や日記に基づく伝記的研究を行った。彼の女性観には保守的キリスト教とロマン主義の傾向があり、それが現実において女性と対等の関係を結ぶことを困難にし、レギーネに対するストーカー的関係を作り出す結果となったといえる。そのような関係がキリスト集中主義に向かい、その結果他者を排除するのではないか、今後特に『愛の業』などのキリスト教的隣人関係との検証を行う予定である。 ボンヘッファーに関しては、彼の初期作品に見る女性観はルター派の伝統的な保守的女性観であるが、晩年に近くなると異なる展開が見られる。彼が抵抗運動と婚約者との出会いを通じてバルト的な秩序概念を越えた男女関係を意識できているかどうか、今後できる限り、時代別に彼の女性観の変化を把握し彼のキリスト教思想との連関性を調査していく。 エディット・シュタインに関しては、文献研究の他、彼女のゆかりの修道院を訪問でき、文章だけでは理解できない宗教意識を体感できた、貴重な体験を得た。また彼女の女性論について、新たに「感情移入」概念の重要性に注目した。彼女の人間研究の核心であるこの概念は、実は女性論の中核に引き継がれていると思われる。彼女の初期の現象学研究が中期の女性論に及ぼした影響と後期の宗教思想への展開に注目して今年度は引き続き文献研究を行う。
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