本年度の資料収集と整理、資料分析と結果の報告は、主に以下の3点にまとめられる。 (1)日本的スポーツが近代スポーツの性差の伝統と変革に如何なる役割を果たしたのか。日本の女性スポーツ史を語る場合、この分析は不可欠であった。そこで講道館等での調査により、雑誌『柔道』などの関連記事索引の作成、記事分析を行った。この過程で福田敬子女史(現講道館9段=女性で世界最高段位、昨年度に聞き取り調査)からの聞き取り事項を文字等資料で確認・補足した。その結果、講道館女子部は昭和戦前期に本格的に組織化され、しかも嘉納治五郎の直轄のもとで展開し、拡大化する男子柔道に対して女子柔道は、嘉納柔道の理想を体現する時空であったことがわかった。なお、女子部組織化に伴って作成された講道館女子部誓文帳(講道館蔵)を発見して、昭和戦前期の女子部の実態を定量的にも明らかにした。この成果は、スポーツ史学会第19回大会で発表した。 (2)(1)との関連、さらに今日的な女子柔道の趨勢を踏まえて、女子柔道の原初形態を知るために、明治期女子柔道について上記雑誌を中心に資料分析を行った。その結果、明治期女子柔道はエリート女性が関与して「形」「乱取」「乱取試合」という多様な身体運動であったことが明らかになった。また、性差変革の基層には「稽古の思想」「技術化の思想」があることを析出した。この成果は、東北スポーツ文化研究会で発表した。 (3)性差を軸に「外来スポーツ(体操を含めて)」と「日本的スポーツ」を比較しつつ、明治期を中心に報告書を作成する。
|