本年度は現在の技術哲学を、環境や生命との関係で拡大し、また倫理と関連づけて再定位するための方法論的整備を図った。 その第一は、現在進展が見られるアメリカおよびドイツの技術哲学および科学哲学のサーベイである。近代科学技術について、科学技術の適用として、その客観的性格が一面的に強調されるきらいが一般にある。だが、他方、技術は科学の基礎として、その方法的秩序や方法的規範を形成する。技術のこうした間人間的、規範的あり方こそ、例えば時間や諸単位の規格化など、近代科学技術の本質といわれてきたものを形成する。このように、本年度のサーベイは、技術の成果やその科学的意義への限定から視野を広げ、技術の発生の内的論理に立ち入り、技術を創りだし、使用する場での社会性を剔抉する上での必須な前提作業と位置づけられる。(その一部として、重要文献の翻訳紹介を行い、翻訳書として公刊した) 第二は、倫理と経験的記述の接点の問題である。一般に技術者倫理では事例研究が重視されるが、その扱いは得てして過度の単純化を許し、そのため個人倫理を超えた、技術そのものに関わる倫理はかえって見えにくくなりがちである。他方、いわゆる倫理原則からのアプローチについては空疎さが指摘される。こうした議論状況を踏まえ、事例研究で最も進んだスペースシャトル事故をもとに、詳細なエスノグラフカルな記述に基づく事例記述の洗い直しと、そうした記述に依拠した倫理の可能性について検討した。
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