本年度は、前年度までの研究で確立した、技術を間主体的な意味形成として捉える視点に基づき、技術哲学と環境論との結合を図り、さらに技術の倫理を定式化するための方法論的整備を行った。 第一は、技術と環境の関わりに関する研究である。従来、近代科学技術vs.原生自然という図式が支配的であった。これに対して、技術の発生の内的論理に立ち入り、技術を創りだし、使用する現場に着目することにより、対自然関係を含む人間の生のなかに近代技術を位置づける作業を行った。この作業に伴い二つの課題に着手した。一つは、技術のなかで自然を固有の存在として認めるとはいかなることかという、自然の承認に関する問題である。いま一つは、技術が一種の立法行為であり、それ自体に規範を懐胎しているとするならば、技術は人間の善き生にいかなる意義を有し、あるいは有しうるのかという問いである。 第二は、倫理と経験的記述の接点の問題である。一般に技術者倫理で重視される事例研究では、得てして過度の単純化のため、個人倫理を超えた技術そのものに関わる倫理は見えにくくなりがちである。本研究では、とくにA.シュッツのレリバンス論や選択の理論の批判的吟味に依拠しながら、行為の動機づけ、企図の主題化などについて検討した。この作業は、技術に関するエスノグラフカルな記述と、そうした記述に依拠した技術倫理を架橋するための、方法論的装置を見いだすためのものである。
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