本年度は次の3つの方向から研究を進めた。 (1)ライプニッツとスピノザの哲学をバロック、実体、魂、個の観点から具体的に、この2つの哲学の特徴を比較検討し、相互関係(影響、批判、拒否)を明らかにした。実体とモナドの関連、モナドと一元論、など類似と対比が明らかになった(スピノザの『エチカ』とライプニッツ『弁神論』やその書簡その他を照らし合わせることによって)。さらに、ライプニッツのスピノザ批判の中心となっていく神、魂の問題は17-18世紀の反宗教地下文書にもつながる。そこでのスピノザ受容は曲解あるいは単純化されたものとなっている。具体例として17世紀末の医師ゴーチエ『生と死の同等性』、18世紀前半の『3人の詐欺師論』をとりあげた。 (2)近現代哲学における情念について、その表象とエクリチュールを明らかにするため、その基点となるデカルト『情念論』の詳細な分析を行い、テクストの注解をつづけた。スピノザやライプニッツの情念論、さらに代哲学の情念の問題ともつなげていく予定である。 (3)日本哲学について、明治以降の西洋哲学導入にともなう諸問題と、西洋と対比しての日本思想の特徴について、研究をすすめた。特に、個や主体、精神などの問題で明らかになることがらを中心にまとめていった。さらに西田幾多郎の哲学においてこうした諸点がどのように現れているかを検討した。また、空間や文明の視点にふれ、和辻哲郎の業績などをもとにして、西洋、イスラムとの対比や比較の問題への取り組みを始めた。
|