本研究の目的は、現代の社会でもっとも緊急を要する社会的合意形成のもつべき倫理的な価値の構造を明らかにすることである。ここでいう社会的な合意形成とは、環境問題等で、人々の価値観や価値意識によって生じる意見の対立や論争、紛争を解決し、対立する人々の間で満足のいくような合意を実現するためのプロセスである。 初年度は、河川事業や道路事業あるいは農村空間整備事業などに関してインタビューやフィールドワークを行うとともに、国土交通省や農水省関係の団体によって依頼された講演を機会に合意形成の課題について情報を収集し、本課題の重要性を再認識するとともに、伝統的な日本社会における合意形成プロセスでの空間的協働行為の意義について理解を深めることができた。また「合意形成」の概念そのものについて深める研究会も継続的に行った。 社会的合意形成という課題の解決を求めている領域として、現代日本の農山村地域の存在を認識しえたことが本年度最大の成果である。高齢化と少子化によって農村空間の危機が叫ばれるなか、「環境」と「地域社会の存続」をキーワードに、農家と非農家、環境団体、行政など多様な関係者の対立の構造が浮かび上がっている。こうした歴史的伝統社会での合意システム研究のためには、日本文化の深い理解が必要であることも認識できた。 本年度の研究によって長野県の一地方のため池整備の問題を本研究のフィールドとして位置づけることが可能になった。また京都における日本文化の伝統のなかに合意形成の倫理的価値について考察する手がかりが見いだされたことから、来年度の研究では、社会的合意形成の倫理的価値構造について、主として、環境倫理と合意形成の倫理という側面から研究を進めるに当たって、京都における日本文化の伝承という歴史的視点から、また長野県のため池整備という空間的視点から、多様な関係者がよりよい農村空間を構築するプロセスでの倫理的価値構造についての深い考察が得られるものと期待できる。
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