本研究の目的は、現代の社会で緊急を要する社会的合意形成のもつべき倫理的な価値の構造を明らかにすることである。ここでいう社会的な合意形成とは、社会基盤整備や環境問題等で、人々の価値観や価値意識によって生じる意見の対立や論争、紛争を解決し、対立する人々の間で満足のいくような合意を実現するためのプロセスである。 本年度は、社会合意形成の実践的な現場として、国土交通省木津川上流河川事務所の依頼によって淀川水系住民対話集会の設計と運営を行い、また農水省関係の団体によって依頼された講演を機会に可能となった長野県上田市のため池の景観整備に関する住民の話し合いや山ノ内町の農業・観光・環境を一体とする地域作りのアドバイザーとして合意形成の助言を行う機会を得た。こうした機会において、現代社会の抱える合意形成の課題を現場で認識することができた。 研究成果として、多様な関係者の間のコミュニケーションをどうはかるかということが話し合いの成否を左右する相互信頼という倫理的課題の根底にあるということ、それぞれの関係者の発話の構造を決定している文法の相互認識が非常に重要であることを認識しえた。すなわち、住民と事業の主体である行政や企業との間で、しばしば、「ご理解いただくための分かりやすい説明」と「陳情・批判」という文法構造の食い違いが生じており、この構造的食い違いが相互の信頼関係の醸成を阻害しているということである。 第3年度は、2年間の間の研究成果をまとめる年度として位置づけ、社会基盤整備や環境問題解決において求められる利害関係者どうしのコミュニケーションの課題を信頼の醸成をめぐる発話の文法構造の違いをどう克服するかという課題として捉え、この視点から社会的合意形成のもつべき倫理的な価値の構造を明らかにする予定である。
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