本研究の目的は、現代の社会で緊急を要する社会的合意形成のもつべき倫理的な価値の構造を明らかにすることである。ここでいう社会的合意形成とは、社会基盤整備や環境問題等で、人々の価値観や価値意識によって生じる意見の対立や論争、紛争を解決し、対立する人々の間で満足のいくような合意を実現するためのプロセスである。 3年にわたる研究の成果として、多様な関係者の間のコミュニケーションをどうはかるかということが話し合いの成否を左右する相互信頼という倫理的課題の根底にあるということ、それぞれの関係者の発話の構造を決定している文法の相互認識が非常に重要であることを認識しえた。すなわち、住民と事業の主体である行政や企業との間で、しばしば、「ご理解いただくための分かりやすい説明」と「陳情・批判」という文法構造の食い違いが生じており、この構造的食い違いが相互の信頼関係の醸成を阻害しているということである。すなわち、社会基盤整備や環境問題解決において求められる利害関係者どうしのコミュニケーションの課題を「信頼の醸成をめぐる発話の文法構造の違いをどう克服するか」という課題として捉え、この視点から社会的合意形成のもつべき倫理的な価値の構造を考察した。 本研究の代表者は、いくつかの合意形成の現場に立ち会い、しかも話し合いの進行役やアドバイザー役という当事者として研究を推進する機会を得た。合意形成の研究では、こうした現場性、当事者性が研究の成果を左右する本質的な要因であるとの認識を得た。こうして得られた知見は、「平成15年度科学研究費補助金・基盤研究(C)・社会的合意形成における倫理的価値構造の研究」と題する報告書において詳細に論じた。
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