本年度においては、初年度に行ったテキスト内在的な研究を続行するとともに、新たに、従来、十分に検討されてきたとは言い難い、道元の思想の、日本倫理思想史、東アジア仏教思想史における位置を確定するための基礎作業を行った。この試みは、テキスト外在的な解釈というよりも、テキストそれ自身がおかれた時代的、思想史的なコンテキストを読み解く試みであり、テキスト内在的な読みとの連関のもとにおいてのみ、意味をもつようなものである。 さらに、道元の時間論の比較思想的研究のために哲学、倫理学、宗教学関係の論文、著作も調査、購入し、従来、学界において行われてきた道元の時間論とアウグスティヌスやハイデガーのそれとの比較研究を再検討し、道元の時間論の独自性を浮き彫りにすると同時に、人間の精神的営為において不可欠の普遍的テーマである時間の問題を、道元に立脚して検討した。特に本年度焦点を当てたのは、神秘主義の文脈における時間論というテーマであり、東西の神秘思想における時間把握と道元のそれについての比較検討にも力を入れた。
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