本年度の研究実施計画の一つは、西洋古代哲学における「異他性」の概念についてプラトンとプロティノスを中心に研究を進める予定であったが、このことに関してはほぼ予定通りに研究を実施できた。すなわち、本報告書の第11項の「研究発表」にそのことを明示した。もう一つの実施計画として、本研究の終着点まで見越してプラトンとプロティノス以外の哲学者の研究をも併せて進めることがあったが、この点についてもエリウゲナやクザーヌスなどについて「異他性」の概念の分析に手を染めることができたので、計画通り実施できたと思う。 本研究課題を追究するための古代中世哲学関係文献・資料の収集についてもほぼ満足できた。すなわち、関係文献の購入のほか国内外での資料収集もほぼ予定した内容と規模で実現できた。特にカナダのトロントの中世研究所(Pontifical Institute of Medieval Studies)での二週間にわたる資料収集では国内で入手できない資料を得ることができた。 エリウゲナにおける「異他性」概念の研究は来年度以降の課題ではあるが、『ペリピュセオン』をはじめとするエリウゲナのテクスト確定の問題についてはあらかじめ本年度から取り組んでおく必要があった。この点では上記の中世研究所のE..Jeauneau氏の協力が得られ、所期の成果を上げることができた。Jeauneau氏とはエリウゲナをはじめ偽ディオニュシオス・アレオパギテスや証聖者マクシモスやニュッサのグレゴリオスなどについても意見を交わすことができ、トロント訪問は大変有益であった。 プラトンにおける「異他性」の概念については『パルメニデス』も研究したのであるが、それを通して新たに課題として浮かぴ上がって来たことはこの著作にはさらに研究が必要だということである。それを来年度の研究計画に盛り込みたいと思う。
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