平成18年度は昨年度までの研究を引き継いでアウグスティヌスを中心に西洋中世哲学における異他性の問題を追究した一方、新たにクザーヌスの哲学における異他性の問題について研究を開始した。クザーヌスはプロクロス、偽ディオニュシオス・アレオパギテス、エリウゲナなどの影響を強く受けており、本研究ではそれらの思想の影響関係の解明も視野に入れて研究を進めた。特にクザーヌスにおけるnonaliud(非他なるもの)という概念の解明に努め、一定の成果を得たが、その概念史的連関については手を尽くして調査したものの特段の成果は得られなかった。しかしこの概念についてはエリウゲナの影響関係があるかもしれないという印象を得たが、その問題については何も研究されたことがないので、さらなる調査と考察を行い解明を期したいと思う。 アウグスティヌスにおける異他性の問題については本年度の山梨大学・教育人間科学部紀要に論文を発表する予定であり、クザーヌスにおける異他性の問題については本年度の日本クザーヌス学会で研究発表する予定であり、さらにエリウゲナについても研究成果の一部を論文にまとめて日本アイルランド学会で研究発表したいと思っている。 外国出張し、カナダのバンクーバーでポール・ダットン教授との意見交換を通していくつかの疑問点が解明され、新しい研究文献を紹介していただいたし、同教授の協力によりUniversity of British ColumbiaとSimon Fraser Universityで資料収集を行い、成果を得ることができた。
|