1 デリダの著作である『絵画における真理』に含まれる四つの論文それぞれについて検討し、その結果を『人文論集』に「『絵画における真理』をめぐるデリダの言説」として発表するとともに、静岡大学哲学会において「『絵画における真理』をめぐるデリダの言説と哲学」として口頭発表し、作品概念を脱構築する「パレルゴンの論理」について論じ、主体(作者)-客体(作品)というこれまでの芸術が前提してきた枠組みが抱える問題性を明らかにすると同時に、主体-客体関係とは異なる芸術表現の可能性及び芸術作品への臨み方について述べた。 2 『絵画における真理』において扱われている現代アーティストのヴァレリオ・アダミ及びジェラール・ティテュス=カルメルに関する情報を収集し、特にアダミに関しては、彼の実際の作品に触れることを通して、『絵画における真理』でのデリダの主張の背景を探った。 3 デリダの他の芸術論である「基底材を猛り狂わせる」(『アルトー/デリダ デッサンと肖像』)『視線の権利』、『盲者の記憶-自画像と他の廃墟』を検討し、『絵画における真理』の基本的主張である「パレルゴンの論理」との関連を探ると共に、特に『盲者の記憶』において芸術的表現がその根本においては盲目性の獲得を通しての他者への責任=応答であるという「rendreの論理」を追跡した。 4 『盲者の記憶』は、美術館が果たしてきた前近代的な収集的機能と近代的作品公開機能に対して、ルーブル美術館が新しい美術館の可能性を探るべく、美術の専門家とは異なるいわば美術の他者である思想家を招いての展覧会という企画の最初の試みとして書かれたものである。そこで、日本の美術館における他者歓待機能や社会的責任に関して、実際の美術館を訪れながら調査した。
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