研究概要 |
この研究の目的は,新資料の研究をもとにヘーゲルの承認論を再構成し,その現代的意義を明らかにすることである。 1 平成15年度は,まず第一に,法哲学講義録の電子データ化に着手した。現在第一回法哲学講義録(1817/18)及び第三回法哲学講義録(1819/20)について作業を進めている。 2 第二に,それと並行してこれらのテクストをもとに,体系期ヘーゲルの法哲学の発展を,特に承認論の観点から考究した。 (1)第一回法哲学講義に関しては,公刊された『法の哲学要綱』(1820)との綿密な比較を行った。その成果は,体系期においてもヘーゲルは,国家制度の枠組みの中で制度を検証するものとしての承認の行為に,一定の意義を認めていることを明らかにしたことである。 (2)また第三回法哲学講義に関しては,この講義の新旧二種類の筆記ノートを相互に比較しつつ研究を行った。その際当時の政治的状況を視野に入れながら,<ヘーゲルがこの時期に立憲主義的立場から反動的立場へと転回した>とするK.H.イルティングの主張は妥当かどうかを吟味した。その成果は,D.ヘンリッヒらによってなされた,旧ノートに基づく従来の第三回講義解釈には批判もあったが,その一部は新ノートの発見によって裏書きされ、また補完されることを示したことにある。また上記の主張に対する最終的な判断は、ヘーゲルの承認思想解釈の根幹に関わるが,この講義の枠内では不可能であることを明らかにし,今後の研究のすすむべき方向を示した。これについては第三回講義のさらなる検討はもちろん、第四回以降の講義録をも検討することが必要であり,次年度以降の課題としたい。 3 第三に,ヘーゲル承認思想の発展に最も大きな影響を与えたフィヒテの実践哲学についても追加的に研究を行った。15年度は「道徳についての講義」(1796)の研究に着手し,公刊された『自然法の基礎』(1796)及び『道徳論の体系』(1798)と比較対照しつつ考察を進めている。
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