研究概要 |
1 まず,平成16年度は,前年度に引き続き,法哲学講義録の電子データ化を行った。現在第六回法哲学講義録(1824/25)について完了し,新たに公刊された第四回法哲学講義録(1821/22)について作業を進めている。 2 第二に,体系期ヘーゲルの法哲学の発展について今年度は特に「承認と自由」という観点から研究を行った。その結果,以下のような自由観が,ヘーゲル法哲学の諸テクストにおいて一貫して見出されることが明らかになった。 すなわち,ヘーゲルの自由観の根本にあるのは承認を前提した共同的自由,言い換えれば<他者において自己のもとにある自由>という自由概念である。自由はまずは抽象法において,所有・契約・不法の関係を取り結ぶ人格にかかわる自然法的な自由として論じられる。これが抽象法の直接的で外在的なあり方を否定する道徳性の主観性の段階を経て,人倫においては,単に内面的なものにとどまらず,外的な実在において成就されなければならない。すなわち家族の直接的に共同的な自由から出発して,市民社会においてもう一度個人的な自由の側面を吟味され,国家における真に共同的自由として実現される。このような自由観は法哲学構想の発展において一貫して見出されるが,共同的自由の実現を支える具体的な国家制度論については,諸テクスト間で異なりが見られる。この点をさらに詳細に分析することが次年度以降の課題である。 3 第三に,前年度に引き続きヘーゲル承認思想の発展に大きな影響を与えたフィヒテの実践哲学についても追加的に研究を行った。講義録『道徳についての講義』(1796)を,この講義の後公刊された『自然法の基礎』(1796)及び『道徳論の体系』(1798)と比較しつつ考察し,この時期のフィヒテ実践哲学における「承認と自由」についての考察が,ヘーゲル法哲学(特にその「抽象法」と「道徳性」)に及ぼした影響を考究した。
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