研究概要 |
1 まず,平成17年度は,前年度に引き続き,法哲学講義録の電子データ化を行った。現在第一回法哲学講義録(1817/18)及び第四回法哲学講義録(1821/22)について作業を完了した。 2 次に,承認理論の現代性を探る試みの一環として、体系期ヘーゲルの法哲学と現代政治哲学との比較という観点から研究を行った。今年度はとりわけヘーゲル法哲学における自由概念を現代リベラリズムにおける自由概念と対比して考察した。 ヘーゲルの自由観は,リベラリズムの立場からはI.バーリンのいわゆる「積極的自由」の典型として批判されることが多い。しかしながら体系期の法哲学を詳細に検討すれば,ヘーゲルは積極的自由のみならず「消極的自由」についても自覚的に検討していたことが明らかになる。特に「抽象法」や「市民社会」の議論において後者の自由は重要な位置を占めている。この傾向はとりわけ第一回〜第三回講義において顕著である。 この理解をもとにヘーゲルが両方の自由にとどまらず,つまりはバーリン流の自由の二元論を否定し,いわば承認を基礎とした「共同的・人倫的自由」ともいうべき第三の立易を示していることを考察した。もちろんこの立場においても「個の自由と共同体の秩序の対立」,「国際関係における人倫的自由の不成立」等に代表される様々な問題は依然として残されている。しかしそれは現代リベラリズムが直面する問題を先取りしているともいえ、ヘーゲルの問題意識の現代性を示している。 3 さらに,初期ヘーゲルについても研究を行った。上記のような体系期のヘーゲル哲学から振り返ったときに,初期ヘーゲルの宗教思想に見出される「愛」の思想が承認論の先駆として位置づけられるということを考察した。
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