今年度は、1、研究発表および研究交流、2、論文発表、3、資料・文献収集を中心に研究を行なった。 1、研究発表および研究交流。研究課題である哲学・倫理学と農業との接点を探るために、東北大学大学院農学研究科で、東北大学農環境倫理研究会の研究報告を中心に数回の研究報告を行なった。報告した内容は、大きく、次の3つである。(1)、農業倫理学における中心課題のひとつである小規模家族農業の存在意義の考察。ここでは、主として現在の有力な社会的規範理論のひとつであるコミュニタリアニズム(共同体主義)の立場からこの問題を考察した。(2)、環境倫理学および農業倫理学からみた水と土地の意義と課題の考察。ここでは、農業倫理学の研究者であるP・B・トンプソンの所説をもとに、従来の環境倫理学の主方向が見落としがちであった農業生産活動の環境倫理的意義を明らかにした。(3)、環境倫理への規範倫理学的アプローチ。ここでは、R・エリオットの所論をもとに、現在の環境倫理学で主流の反人間中心主義の考え方である道徳的配慮の拡張論および全体論の内容を整理したうえで、代表的な規範倫理理論である結果主義、義務論、徳倫理学からの環境問題へのアプローチとの比較考察を行なった。どの研究報告でも、農業研究者から活発な質問や意見が出され、哲学・倫理学研究と農業研究双方にとって有意義な研究交流となった。 2、論文発表。個人研究としては、徳倫理学が研究課題の一部に組み込まれていることから、自然環境保護と道徳教育のあり方を探るために「生命に対する畏敬の念」に関する研究を行い、また徳倫理学の一部に数え入れられてよいM・シェーラーの倫理学説に関する研究を行い、これらを論文として発表した(研究発表欄に記載)。 3、資料・文献収集。これについては、主として米国の最近の環境倫理に関する文献・資料を収集したが、これについては、万全とはいえず今後も継続する予定である。
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