研究概要 |
本研究は西洋思想の源流に位置する東方・ギリシア教父の伝統の代表者として,ニュッサのグレゴリオスと証聖者マクシモスとを取り上げ,その歴史的かつ本質的な総合研究を志向するものである。 自然・本性(ピュシス)や徳(アレテー)という言葉は,むろん古代ギリシア哲学以来,中心的問題に関わるものであったが,教父の伝統はそれを受容しつつ,ヘブライ・キリスト教の基調たるダイナミズムへと超克していったと考えられる。本研究では,上記二人の主要著作を吟味し,自然・本性と徳の形成の問題を,いわば存在論的ダイナミズムという大きな構造の中で捉え直し,存在,善,信,意志,知といった根本概念の吟味,そして自己,人間の成立の根本の意味を解明しようとした。この点,問題は単に過ぎ去った時代の思想の解明に留まるものではなく,現代に生きる我々の自己把握の質に大きく関わってくることは言うまでもない。 そして本研究では,従来,キリスト教の教理という枠内で扱われることの多かった受肉や神の似像ということがらが,いかに普遍的に人間とそのペルソナの問題に関わっているかということを明らかにした。その論は哲学,倫理学の,今日における新たな可能性の場を開くものともなり得るであろう。
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