本研究は、平成15年度から3年間で、生命・環境・情報等の応用倫理諸部門の間に連関をつけ、それらを統合する可能性を探ることをめざした。そのために、生命・環境・情報等に関する倫理の諸原理や、基礎理論の間の基本的構造連関を理論的に考察すると同時に、道徳意識や価値に関する調査によって、抽象的理論的考察を実証的に基礎づけることを試みた。 生命・環境・情報等の応用倫理の諸部門の間の連関を探る試みは、今まで国内外にほとんど例をみない。また、それを意識調査のデータ解析とともに進めるというのは、国内外ではじめての試みである。それには、「反省的均衡」の方法を実際に適用可能なものにすることが必要となるが、そうした試みも私の先行研究を除けば、内外にほとんど見あたらない。このような研究は、近い将来に倫理学にとってきわめて重要テーマとなるはずであり、本研究はそれに先鞭をつけることを目指すものである。 以上が当初の目的であるが、研究自体が独創的なものであるため国内外に先行研究がほとんど見当たらず、その分だけ試行錯誤を経験せざるを得ず、研究は当初の見込みほどは進展しなかった。とはいえ、重要な成果もいくつか達成することができた。全体的に見ると、生命倫理を中心としてそれと環境倫理との関係、また情報時代における生命倫理のあり方に関する考察、「いのち」とリスク、自己決定の関係等、理論的側面での成果はかなり上がったといえる。そのことは「反省的均衡」という方法論に関する理論的考察についてもいえる。実証的研究も4度のアンケート調査を実施し一応の成果を達成した。それら成果はいくつかの論文や反省的均衡の方法の探究に活用された。理論的と実証的との連動もある程度は達成されたが、実証的調査を理論的研究に組み込み両者の相乗効果を狙うということに関しては、十分に満足な結果を得たとはいえない。これは今後の課題としてある。
|