本年度は3年度の研究の2年目であったので、研究対象を明確にし、その基本的な思想構造を理解することを中心的な課題とした。年度前半においては、鴨長明における遁世の在り方を検討した。従来の研究成果を再検討すると共に、近年の研究動向の特質と問題点を考察した。さららの上にたって、長明の遁世者としての特質を解明した。 年度後半においては、西行における遁世の在り方を検討した。こちらについても、従来の研究成果を踏まえ、近年の研究成果を再検討した。 従来は遁世の問題を中世の浄土信仰との関連を中心として理解しようとする傾向が強かったが、そのような姿勢は遁世の理解にかなりの歪みを与えてきたことが懸念される。遁世者の中には、教義の浄土信仰ではなく、天台宗の信仰圏だけではなく、密教や山岳信仰、さらには神道に含まれる信仰とも強い関わりをもっていることが理解される。 もう一つの問題は、遁世を世俗的な生活を否定する行為とのみ捉えることの不十分さである。遁世者は、寺院生活者よりもさらに世俗から離れていると受け止められがちだし、またそのような側面も存在するが、一方では彼らは世俗と寺院の中間に存在する在俗の信仰者であるという性格もおびているのである。遁世することによって、現世における生の充実をもとめるといったケースも数多く見られるのである。世俗と寺院、遁世という順に信仰が強くなっていくという理解は正確なものとはいえない。 遁世が、なんらかの宗教的な力を生み出すことはたしかである。それは、いかに現世的価値を志向していても、日常的な合理的な方法によって結果を実現させるのではない。現実的な場面での努力ではなく、宗教的な力に訴えることで、希望を実現するのである。この後の、研究としては、遁世の多様性を具体的に分析することで、そのような宗教的な力を生む方法としての遁世の位置を理解していきたい。
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