平成15年度は、追加採択の通知を受けた後、実質11月からの実施となったため、申請時に予定していた夏季の研究計画(ロシア科学アカデミー東洋学研究所における二ヶ月の滞在研究)は16年度夏に先送りすることとし、代えて3月に短期でロシア国立文芸文書館を訪問し、資料文献の収集にあたった。その際、V.ソロヴィヨフの青年期の仏語草稿を日本人研究者として初めて発掘し得たことは画期的なことであったかと思われる。その成果は、15年度中に作業を進めてきたテキスト(Vladimir Soloviev "La Sophia")の翻訳を16年度中に雑誌掲載する(掲載予定誌「エイコーン-東方キリスト教研究-」29号から順次掲載予定)際に生かされる。これらはいずれ全訳本として出版するか、あるいは、抄訳に対して詳細な注釈をつけて、ソロヴィヨフを源泉とするロシア・ソフィオロジーに関する著作の一部とする予定である。 また3月のモスクワ滞在に際しては、東洋学研究所のT.P.グリゴーリェヴァ教授とロシア宗教思想に関する有益な懇談を持ち得た。女史は現在涅槃経の一部翻訳出版に関わっており、仏教の中道の教えにも関心を深くしていることから、ソロヴィヨフの中道的精神を中心としてロシア宗教哲学と日本仏教を比較思想的に究明する本研究者の露語原稿を「哲学の諸問題」誌に掲載することを約束してくれた。また、今年度夏に東洋学研究所で開催されるはずの国際会議への招待を確認して帰国した。 その他、かなり以前に初訳を自身で終えながら、時間的制約のために入力作業ができないままであったソロヴィヨフの著作「全的知識の哲学的根元」、「神の概念」、「抽象原理批判」他の翻訳原稿の入力補助が本科研費で実現できたことは大変有難かった。この入力済みの原稿に訂正加筆を加えて、これらもいずれ出版を予定している。
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