研究課題/領域番号 |
15520025
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
荻野 弘之 上智大学, 文学部, 教授 (20177158)
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研究分担者 |
渡部 清 上智大学, 文学部, 教授 (00053661)
田中 裕 上智大学, 文学部, 教授 (70197490)
大橋 容一郎 上智大学, 文学部, 教授 (10223926)
谷口 薫 上智大学, 文学部, 助手
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キーワード | アウグスティヌス / カント / 意志 / 超越的自由 / 道徳心理学 / 幸福論 / 宗教哲学 |
研究概要 |
研究計画の初年度に当たる平成15年度は、それぞれの研究分担領域における問題の研究状況を整理することから開始した。 (1)まず古代哲学の分野では、古典期以来の伝統的なギリシア的「幸福論」を継承深化させたアウグスティヌスの思想圏のうちに、意志や愛などの指向性の対象となる「真理」の概念が芽生えていたことを明らかにできた。これはさらにストア学派的な理性論との対比によって、感情・情念にいかなる位置づけを与えるか、新たな「道徳心理学」の課題を開くものであり、次年度以降の研究に委ねたい(以上荻野担当)。 (2)近代的な「意志」概念の重要な源泉であるカント哲学に関しては、特に実践的洞察における「見なし」(ansehen)の性格に関して精密な考察が加えられた。意志を発動させた原理は道徳法則という仮想界の「見なし」においてしか成立しえない。このことは超越論的自由の位置づけと表裏をなすものであり、自然哲学を含むカントの学問論全般との対比で、さらに問題を考察しなければならない(以上大橋担当)。 (3)近年目覚ましい伸長を見せているフェミニズム的な観点から、従来の哲学史的研究とは異なるアプローチが緒についたのも成果の一つである。19世紀を通じて女性がいかに描かれてきたか、ミシュレのテクストからその表象(イメージ)の変遷を読み解こうとする。これはなお展開の余地を残しているものの、次年度以降の研究成果が期待できる(以上谷口担当)。 (4)近代日本の宗教哲学のうちに、西欧とは異なる自我意識とそれに伴う意志のあり方に関する理解の萌芽を見ようとする研究も着実に進展した。特にこれまで小説家としてのみ理解されていた文学者・夏目漱石のうちに哲学的な問題に取り組んでいた漱石像を発見したことは、従来の文芸評論家による一連の漱石論にまったく新たな視点を開くものである。また清沢満之の仏教的存在論思想をトマス主義のロッツェと比較する試みが端緒についた(以上渡部/田中担当)。 (5)最後に、こうした研究成果を従来のような発表媒体のみならず、ウェブサィトを活用することで、さらに内外の研究者との研究交流を促進するような方向を模索中である。
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