明治時代の国民道徳運動には、いくつもの流れがある。政府・文部省・宮内省を中心とした官側の動きは、教学聖旨・婦女鑑などから教育勅語の編纂となって結実した。それについてはこれまでの近代史研究・思想史研究・教育史研究によって明らかにされ、とりわけ海後宗臣・稲田正次の詳細な研究によって教育勅語成立の歴史的背景が解明された。民間の動きとしては、明六社・洋々社・慶応義塾そして西村茂樹が組織した日本弘道会などがある。それらについては個々に検討が加えられてきたが、なおその全体像は明らかではない。 本研究は西村茂樹と日本弘道会を主たる対象とする。西村の著作は3巻本の旧全集に納められ、その事績は活澣な2冊本伝記にまとめられている。しかし彼の活動は、これに尽きるものではなく、国立国会図書館はじめ全国各地の図書館・文書館・資料館・個人宅にはなお厖大な史料が収蔵されている。4年間にわたる研究調査をとおしておびただしい量の関係資料を発掘・収集して『増補改定西村茂樹全集』(思文閣・全10巻既刊5冊、1冊平均800p)におさめるとともに以下にかかげる何編かの論文を発表した。研究経費を有効に活用できた。
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