本年度は、文献研究だけでなく、身体性認知科学の分野で実際にヒューマノイド型ロボットを作成している研究者との共同作業による研究遂行を試みた。他者はなぜ他者、つまり心をもった他の人間として理解されるのか。言語によるコミュニケーションが、他者の心を理解するもっとも明晰な方途になりうるが、現代のようにバーチャルな空間が確立されている状況では、言語的なコミュニケーションは必ずしも実在の他者を保証してはくれない。論文「ロボットが/に心を感じるとき」は、他者の心にアクセスするためには、じぶんと似たような身体をもつ存在であることが不可欠であるという前提から、人間の身体をコミュニケーションという観点から捉えた。まず、人間の子供が他者を内部=心をもった存在として認識するプロセスを現象学観点と発達心理学的な観点から明らかにした。それによれば、発達段階で人間は他者(とくに母親)との身体を通じた癒合的な経験から出発し、そこからコミュニケーションを通じて他者をじぶんと異なった心をもった存在として認識するようになる。このときに、重要な身体的コミュニケーションは、他者の視線を感知したり、他者と共同注意をできるということである。対して、ロボットのもつ身体に心を感じるには、ロボットの身体とじぶんの身体との対応関係を理解することから始めなければならない。本研究で使用したロボットは他者の視線を感知したり、共同注意を行うことができる。現段階ではロボットに心の存在を認めることは難しいが、身体的な対応関係がベースとなる事柄(たとえば、ロボットがじぶんの視線を捉えたり、ロボットの視線を追ったりということ)は、ロボットと人間(本研究では子供を対象とした)とのコミュニケーションにとって極めて有効であることが確認された。身体のアルケオロジーという本研究の課題との関係から言えることは、視線の追跡や共同注意といった事柄は、身体に備わる基本的な能力と考えることができるということである。
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