1.神の概念を解明した。神は<存在の生成的威力>としての、存在の根源・根拠である。神の現われは「崇り」(災厄)であるが、人間が神を祭ることによって神は豊饒をもたらす。神は畏怖と魅惑の両義性を持った存在である。つまり、人間は神に対して遠ざけつつ一体化を求めるという、遠心と求心の矛盾する志向性を持ち、関係は不安定である。神との関係において、祭祀能力が問われる。『古事記』は最も優れた祭祀意識の象徴であるアマテラスを神(「たま神」)とし、それを継承する天皇の優秀性を語る。 2.神に関わる聖地の景観構造と、その景観構造が持つ倫理学的意味を解明した。神社周辺の景観は、海・島・川・神社・神体山という基本的要因からなり、それらがほぼ一直線上に並ぶ。その景観構造は、遠心と球心という矛盾する志向性を空間的に外化した構造である。 3.仏の概念を解明するとともに、神仏関係思想の様態を研究した。 (1)最澄を軸として、古代日本仏教における神仏関係思想の特質を研究した。7世紀の日本において、仏は従来とは異なる祭祀意識としての「たま神」とみなされた。「たま神」において神と仏とが習合した。そしてまた、仏の知(絶対知)の体得によって見える存在の真実相と神のもたらす豊饒とが習合したのである。 (2)和辻哲郎における神仏関係思想を解明した。和辻はインド仏教の「空」を絶対者(「絶対的否定性」)とし、日本の「不定の神」がそれを正しく把握したものであるとみなす。そして、日本民族は特殊としての神(天皇・民族国家)を通じてこそ普遍的な「空」を実現できると考えたのである。
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