本研究は儒教思想を専門とする小島毅と道教思想を専門とする横手裕との共同作業として、中国宋元時代における儒教と道教との交渉関係を、当時のテキストに即しながら調査検討し、これまで研究が相対的におくれていた西暦13世紀の思想状況を解明することを課題としている。その主要検討対象として、南宋末期の西暦13世紀後半に活躍した林希逸という思想家による『老子』注釈を選定した。林希逸は儒教の一派である道学の系譜に属する学者でありながら、彼以前の道学者たちが批判的な態度を示してきた老荘思想にも好意的で、『老子』のみならず『列子』『荘子』にも注釈を施している。これらの注解は日本でも江戸時代に老荘思想を学ぶ教材として広く読まれ、各種和刻本も出版されている。 平成16年度は、前年度に引き続き、林希逸の『老子口義』全文の現代日本語訳と語釈をつける作業を中心に研究を実施した。前年度に全体の約7割についての訳注作業を果たしていたが、16年度には残りの部分を夏までに読了し、あらためて全体をはじめから読み直すことによって、最初は不明のまま保留にしていた語句を含めて再度の綿密な検討をおこなった。なお、この作業には、小島・横手両名のほかに大学院生数名が参加した。 こうして2005年2月には全訳注作業を終え、これを編集整理したうえで「林希逸『老子口義』訳注稿」として研究成果報告書を作成した。 これによって、従来の研究史上、その重要性が認識されながら充分に検討されてこなかった13世紀における儒道交渉について、今後の研究につながる基礎的作業がなされたものと考える。
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